十和田市

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シーン2 光太郎、その若き日

高村光太郎は、明治を代表する彫刻家、

高村光雲の長男として生まれました。

父の跡を継いで彫刻家になるために、

小学生の頃から彫刻を始め、

十代で東京美術学校に入学しました。

卒業後は海外の新しい彫刻を学ぶため、

アメリカ、イギリス、そしてフランスに留学します。

特に、フランスのパリで、

ロダンの彫刻「考える人」を見て、

体が震えたといいます。

 

これこそ、自分が作りたい、新しい彫刻だ。

僕が日本で教わってきたのは芸術ではない。

古臭い職人の仕事だ。

一日も早く日本に帰って、

こういう本当の芸術を、日本に広めなければ。

 

光太郎は、10年の留学の予定を

3年あまりにして、日本に帰ります。

明治の終わりごろ、今から、百年ほど前のことです。

しかし、帰ってきた日本は、

まだまだ古い習わしに、とらわれていました。

光太郎は、そんな日本に、絶望しました。

二階のガラス窓を割って、飛び出してきた椅子が、

道に落ちてバラバラに壊れました。

東京、浅草のカフェです。

二階の窓から、かなり酔っ払った光太郎が、怒鳴っています。

 

何を見ていやがんだぁ?

いいかぁ、お前らの上に、とびおりるぞ!

 

あぶない。

よせ、光太郎さん!

 

光太郎にしがみつき、

窓からひきはがしたのは、

北原白秋と柳敬助。

光太郎と同じ、若い芸術家グループの、メンバーです。

むりやり座らされた光太郎は、

そのままテーブルにつっぷして眠ってしまいました。

 

かわいそうに、

光太郎くんの目指す新しい芸術は、

この国ではまだ受け入れられない。

 

西洋で本物の芸術を見てきただけに、

つらいでしょうね。

 

せっかく開いた画廊も、うまくいかなかったし…。

 

一緒に新しい彫刻を作ろうといっていた、

荻原守衛さんも、亡くなってしまって…。

 

何とかしてやらねば…。

 

眠ってしまった光太郎にマントをはおらせて、

ふたりはその場を離れました。

帰宅した、柳敬助を、妻の八重が、

眠そうな顔で、出迎えました。

 

ただいま。

 

お帰りなさい。遅かったわね。

 

すまん、すまん。

高村くんが酔いつぶれてしまってね。

 

まあ、高村さんが?

 

このところ、そうなんだ。

 

ふうん

では、どうしようかしら…。

 

何がだい?

 

女子大学校の後輩で、

画家を目指している人が、いるの。

高村さんが雑誌に書いた評論を読んで、

ぜひお会いしたいって言っているのよ。

 

でも、そんな調子じゃ…。

いや、かえっていいかもしれない。

 

高村くんだって、

芸術のわかる女友達でもできれば、変わるかもしれない。

 

そうだといいんですけど…。

 

それで、なんという人なんだい?

 

長沼智恵子さんって方よ。

 

よし、早速話を進めよう。

 

光太郎の生い立ち。西洋で本物の芸術を学び、古いならわしにとらわれている日本の芸術界に

絶望する光太郎。

 

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