「八甲田山(はっこうださん)」という名前は、特定の山を指すのではなく、複数の山々をまとめた呼び方です。具体的には、大岳(おおだけ)、田茂萢岳(たもやちだけ)、赤倉岳(あかくらだけ)、硫黄岳(いおうだけ)、小岳(こだけ)、高田大岳(たかだおおだけ)などの「北八甲田」と、櫛ヶ峰(くしがみね)、駒ヶ峰(こまがみね)、乗鞍岳(のりくらだけ)などの「南八甲田」からなる、20以上の山々を指しています。
「八甲田山」という名前の由来については、いくつかの説がありますが、はっきりとはわかっていません。よく知られている説のひとつに、「かぶとのような山々の間に“田”と呼ばれる湿原が点在している」ことから、その名がついたというものがあります。
国道103号線で青森市から奥入瀬渓流(おいらせけいりゅう)へ向かう途中にあるのが、傘松峠です。ここは十和田市と青森市の境に近く、標高は1,020メートルと、この道で最も高い場所になります。
峠の周辺には、アオモリトドマツやダケカンバといった木々が生い茂り、ミネカエデやオオカメノキ、ヤマウルシなどの低木も見られます。ここからは北八甲田の石倉岳が近くに見えます。
また、傘松峠から睡蓮沼(すいれんぬま)へ向かう途中には「高田萢(たかだやち)」と呼ばれる湿原があり、6月から7月頃の雪解けの時期には、ミズバショウの花が一面に咲き、車窓からその美しい光景を楽しめます。
蔦温泉(つたおんせん)周辺には、ブナの森に囲まれて大小7つの沼が点在しています。そのうち近くにある6つは、蔦沼(つたぬま)、鏡沼(かがみぬま)、月沼(つきぬま)、長沼(ながぬま)、菅沼(すがぬま)、ひょうたん沼です。そしてもう一つの赤沼(あかぬま)を加えて、あわせて「蔦七沼」と呼ばれています。
これらの沼は約3kmの遊歩道でつながっており、「蔦野鳥の森」として環境省に指定されています。人工の沼を除けば、赤倉岳の火山活動後に発生した地滑りや山崩れによって自然にできた湖です。
蔦温泉旅館の前にある「蔦温泉園地ビジターセンター」から、車椅子でも通れる遊歩道で約500mのところにあるのが蔦沼です。長さ約500m、幅約250mの三角形の形をしており、面積は約6ヘクタール、深さは約17mあります。透明度は計測されていませんが、約8〜12mと考えられています。
夏の深緑の静けさも美しいですが、秋の紅葉は特に見事で、多くの人に人気があります。
この沼は、蔦七沼の最後に位置し、蔦温泉のすぐ近くにあります。沼が湿原に変わりつつある途中の姿を見せており、やや雑然としていますが、自然のありのままの姿を観察できる貴重な場所です。ここはモリアオガエルの産卵地にもなっています。
赤沼は蔦沼によく似た沼で、面積は約6ヘクタール。南側にある赤倉岳を映し出す景色がとても美しく、特に紅葉の時期には蔦沼と並んで人気があります。
水は酸性が強く、生きものは限られた種しか生息していません。その中でも「ルリイトトンボ」は夏の見どころの一つです。
この沼は、蔦野鳥の森から約4km離れた静かな場所にあり、透明度が非常に高いことで知られています。最も深い場所は18.5mあり、底まで見えるほどです。作家・深田久弥がこの景色を「山中の明眸(めいぼう)」と表現したことでも有名です。
睡蓮沼は、国道103号沿いにある傘松峠のすぐ近くにある、小さくて美しい沼です。周囲は湿原に囲まれ、背後には北八甲田の山々が連なっています。記念写真の撮影スポットとしても人気があり、多くの観光客でにぎわいます。
山の並びは、左から石倉岳、硫黄岳、大岳、小岳、高田大岳です。夏には、この沼の名の由来でもあるスイレン(ヒツジグサ)の白い花が咲き、他にもミズバショウ、ワタスゲ、ミツガシワ、キンコウカ、ウメバチソウなど、春から秋にかけてさまざまな湿原植物を見ることができます。秋には、色づいた木々が沼を鮮やかに彩ります。
八甲田連峰は、最高峰である大岳(標高1,584.4m)を中心に多くの山々で構成されています。日本の北部に位置しているため、標高1,450mを超えるあたりからは高山帯になっており、ハイマツなどの低木林の中に、イワウメ、コケモモ、チングルマなどの高山植物が広がります。
標高1,450〜950mは「亜高山帯」と呼ばれ、アオモリトドマツ(別名:オオシラビソ)の森が広がっています。この森にはダケカンバやナナカマドなどの高木や、ミネカエデ、コヨウラクツツジといった低木も混ざっています。
この地域には湿原も多く見られ、北八甲田ではヌマガヤやワタスゲが主な植物の、やや乾いた湿原が多いのに対し、南八甲田には池塘(ちとう)と呼ばれる小さな池が点在する、より湿った湿原が見られます。ここでは、ニッコウキスゲの群生も見られます。
標高950mより下の地域は「山地帯」となり、ブナの大樹海が広がっています。このあたりは日本海型の気候で雪が多く、ヒメアオキやエゾユズリハといった常緑の低木が生えています。さらに、ミズナラやアカイタヤといった広葉樹の高木も混生しており、豊かな自然を楽しむことができます。
八甲田連峰には、豊かな自然に抱かれた山の温泉が点在しています。森の静けさや雪景色、紅葉に包まれながら入る湯は、心も体も解きほぐす極上のひととき。登山や散策の疲れを癒すのにぴったりな、四季を感じる癒しの空間が広がっています。
【猿倉温泉】は、八甲田山の登山口にほど近い場所にある、一軒宿の山の温泉です。標高900メートルに位置し、夏から秋にかけての季節限定で営業(6月〜10月)。白濁した単純硫黄泉は、疲労回復や神経痛にも効果的とされています。
周囲は手つかずのブナ林に囲まれ、野鳥の声や風の音しか聞こえないほどの静けさ。登山・トレッキングの前後に、心と体を癒す湯を求めて訪れるリピーターも多い秘湯です。
静かな森の中に佇む【谷地温泉】は、「日本三秘湯」のひとつに数えられる、青森県八甲田山系の隠れた名湯です。開湯400年以上という歴史を持ち、硫黄泉と単純泉の2種類の源泉が楽しめるのが特徴。
電波も届かない静かな環境で、心身ともにリセットできる癒しの湯治宿として高い評価を得ています。日常を忘れ、自然と向き合いたい方にぴったりな秘境温泉です。
【蔦温泉(つたおんせん)】は、ブナの森と七つの沼に囲まれた、自然派温泉好きにおすすめの宿泊温泉地。青森県八甲田連峰の西側に位置し、木造の老舗旅館「蔦温泉旅館」が有名です。
ここの最大の魅力は、「足元湧出」と呼ばれる自然湧出式の温泉。浴槽の底から源泉が直接湧き出すスタイルは全国でも珍しく、肌にやさしい単純温泉を堪能できます。秋には蔦沼の紅葉が絶景で、写真家や登山者にも人気です。
青森県・八甲田連峰に位置する【酸ヶ湯温泉(すかゆおんせん)】は、全国的にも有名な強酸性の硫黄泉です。乳白色の湯と、160畳の大浴場「ヒバ千人風呂」は圧巻。300年以上の歴史を誇り、湯治場としても根強い人気を誇ります。
冬には日本有数の豪雪地帯となり、雪に包まれた露天風呂での入浴はまさに幻想的。登山やトレッキング後の疲労回復にも最適です。八甲田観光の際には、必ず立ち寄りたい名湯といえるでしょう。
【寒水沢温泉(かんすいざわおんせん)】は、青森県八甲田連峰の中でもあまり知られていない秘湯のひとつです。静かな山間に位置し、炭酸水素塩泉などの泉質を持つ源泉かけ流しの温泉を楽しめます。
観光地化されていないため、静かに過ごしたい人や本格的な湯治を目的とする人におすすめ。都会の喧騒から離れて、自然の中でじっくりと体を癒したい方にぴったりな温泉地です。