十和田湖南部の湖畔「休屋(やすみや)」には、湖岸に沿って美しい遊歩道が整備されています。四季折々の自然を感じながら歩いていくと、湖面に静かに浮かぶ二つの小島が見えてきます。これが「恵比寿島」と「大黒島」、通称「恵比寿大黒島」です。
この島々は、十和田火山の中央火口丘から噴き出した溶岩(玄武岩質安山岩)が湖上に現れたもので、地質学的にも貴重な存在です。乙女の像や十和田神社と並んで、十和田湖を象徴する風景のひとつとして親しまれています。
恵比寿様と大黒様がそれぞれ祀られているこの島は、古くから「果報島(かほうじま)」と呼ばれ、湖へお参りに来た人々が岸からお賽銭を投げ、島に届けば願いが叶うと信じられてきました。今でも湖底には、参拝者が投げた古銭が数多く沈んでおり、信仰の深さを物語っています。
かつては風の強い日や嵐の後に、湖底から古銭が浜に打ち上げられることもありました。実際に、展示されている古銭の中には、江戸時代初期(1636〜1659年)に鋳造された「古寛永通宝(こかんえいつうほう)」も含まれています。
さらに、十和田神社の奥にある岩山を越えた場所「占場(うらないば)」は、十和田信仰の開祖・南祖坊(なんそのぼう)が湖に身を投じて青龍大権現となったと伝わる神聖な地です。この場所でも明治時代から数回にわたって古銭の引き上げが行われており、最初に見つかった古銭のうち約7割は中国から渡来した「唐銭」だったと記録されています。
恵比寿・大黒島は、信仰と歴史、そして自然が一体となった、まさに“十和田湖の祈りの象徴”ともいえる存在です。季節によって表情を変える湖面に浮かぶその姿は、訪れる人々に静かな感動と、どこか神秘的な気配を与えてくれるでしょう。