十和田市民文化センターの敷地内に静かにたたずむ1両の蒸気機関車「D51-663号」。かつて全国を駆け抜けたこの名機は、今も市民の誇りとして保存され、地域の歴史とともにその存在を伝え続けています。
「デゴイチ」の愛称で親しまれるD51形蒸気機関車は、1941年(昭和16年)9月、三菱車輌株式会社で製造されました。番号が示す通り、663番目に製造されたこの車両は、吹田(大阪府)、名古屋(愛知県)、旭川・滝川(北海道)などの各地で主に貨物輸送に従事し、33年間で実に177万9,296km、地球44.5周分を走行しました。
その任務を終えたD51-663号は、1975年(昭和50年)の市制施行20周年を記念し、また青少年の社会教育教材として、当時の国鉄から十和田市に無償貸与されました。
移設は1974年(昭和49年)9月8日から10日までの3日間にわたって行われました。八戸機関区を出発したD51-663号は、まず国鉄三沢駅に到着し、そこから引き込み線を通って十和田市駅(現在の東一番町・ケーズデンキ十和田店付近)に到着。その後、市街地を縦断して十和田市民文化センターまでの壮大な陸送が行われ、まち全体が沸き立つ一大イベントとなりました。
運搬費として約500万円が寄附され、市も110万円を拠出することで、この歴史的保存が実現しました。なお、当時の500万円は、現在の価値に換算するとおよそ2,250万円に相当するとされており、それだけ多くの想いと資源が込められていたことがうかがえます。
現在、D51-663号は屋根付きで保存され、保存状態も良好です。2023年(令和5年)には設置から50年を迎え、十和田市民文化センターでは、当時の資料や記録を紹介する展示も行われ、改めて市民の記憶を呼び起こす存在となっています。
静かに、まちの一角に息づくD51-663号。蒸気と鉄の響きを伝えるこの鉄道遺産は、次の世代へと語り継がれていくでしょう。